小話まとめ2 - 5/9

『通り雨』

 

「スカイアイ、雨が降りそうだよ」
メビウス1が忠告してから数分もたたず、ポツポツと肌に冷たいものが当たった。それから、あっという間に前も見えないくらいの豪雨になった。肌に雨粒が鋭く突き刺さる。
「走れ!」
スカイアイは雨の音に負けじと叫んだ。走りながら、どこか雨を凌げる場所を探した。
稲光りが光る。
「……スカイアイ、あそこ!」
メビウス1が示したのは倉庫の軒先。そこへ走った。
雨のかからない場所に入り、二人してひと息つく。
バケツをひっくり返したような雨という比喩がぴったりだった。
メビウス1が空を見上げて言う。
「通り雨だ。しばらく雨宿りしてたら、きっとすぐに止むよ」
七月のノースポイントはたまにこんな気象になった。
メビウス1は犬のように濡れた頭を振った。水滴が辺りに飛び散る。
「ひゃー、ビショビショだぁ」
雨に当たったのはほんの数分だったのに、服の中にまで雨が浸透していた。暑くて、雨に濡れるのは冷たくて気持ちいいくらいだったが、服が濡れる感触はあまり良いとはいえない。
メビウス1は着ていたTシャツを脱ぎだした。両手で濡れてぼとぼとのTシャツをしぼっている。
彼の白いうなじを水滴が流れた。それは彼の着ていた薄いランニングシャツに吸い込まれた。
稲妻が光ってメビウス1の姿を白く写し出す。
ぺったりと張り付いたシャツは、細身の――しかし筋肉のついた彼の肢体をくっきりと浮かび上がらせる。素肌の色がシャツ越しに透けて見え、スカイアイは見てはいけないものを見たように目を反らした。
鳴り響く雷も、どしゃ降りの雨の音も、自分の耳の奥に響きわたる脈動にかき消されてしまった。
瞼の奥に彼の白い肢体がネガフィルムのように焼きついて離れなかった。