小話まとめ2 - 7/9

『戦士の血脈』のおまけSS

 

「スカイアイ聞いて、今日トリガーがね……」
夜、スカイアイの部屋でそんなセリフから始まるメビウス1のトリガー語り。
スカイアイはトリガーがこの基地に来てから毎日のようにメビウス1からの報告を聞いていた。
(いや、教え子自慢――か?)
今日は一緒にこんなことをした、トリガーがこんなことを言ったなどと、実に楽しそうにメビウス1は話す。普段の彼は口下手でほとんど喋らないというのに。
トリガーが。トリガーと。トリガーに。
うんざりする。
メビウス1の口から出てくるのはその名ばかりで恋人としては内心、複雑だった。それでも、その内心を悟らせないように表面上は笑顔を絶やさない。メビウス1が今日あったことを話せる人間は自分しかいないからだ。その自分が話を聞いてあげなかったら彼は楽しさを誰とも共有できずに寂しい思いをするだろう。
メビウス1がトリガーに対して特別な気持ち――つまり恋愛感情を抱いていないのはわかっている。そんな心配はしていない。
彼は、ただ一緒に飛べるのが楽しいだけなのだ。
同じ目線で同じものを見て、同じものを感じて。
空の上でもたった独り。いつも孤独なメビウス1にそういう相手が現れたのだ。嬉しくて楽しくてしょうがなくなるのも仕方がない。
こういう時、なぜ自分は戦闘機パイロットにならなかったのかと過去を少しだけ後悔する。
今の仕事に不満があるわけでは決してない。メビウス1を支援できるのは自分だけだとの自負もある。けれども戦闘機パイロットという生き物の、本当のところを自分は理解できない。技術を駆使して戦い、相手を殺す。その時にいったい何を感じるのか。その根っこの部分がスカイアイにはわからないのだ。
スカイアイにはメビウス1を完全に理解することができない。
だが、トリガーにはそれができる。
「それでねトリガーが……ってスカイアイ、聞いてる?」
メビウス1が考えに耽るスカイアイに目ざとく気づいた。なぜこういう時は気づくんだ。気づいて欲しいことにはいつも全然気づいてくれないのに。
「ああ、聞いているとも。だけどメビウス1……」
「?」
「少し、黙ろうか」
そう言って、饒舌な口を唇で塞いだ。