小話まとめ2 - 6/9

『Hello,もしもし』

 

夜、夕飯を済ませて家事も全て終わらせた時間。
普通なら寝るまでのこの時間は趣味に費やしたりリラックスする時間なのだがメビウス1は逆にそわそわしだす。
テーブルに置いていた携帯電話が鳴った。メビウス1は一瞬、心臓が止まりそうなほどびっくりした。しかし、すぐに携帯電話を手に取った。
相手はスカイアイだとわかっている。このくらいの時間になるといつもスカイアイから電話がかかってくるから、いつしか電話を待ち遠しく思うようになった。
「メビウス1? ……今、大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫だよ」
耳元から聞こえてくるスカイアイの低い声に鼓動が高まる。
彼が電話をかけてくるのは特別な用事があるからではなかった。毎日毎日、スカイアイが聞くことは同じ。
「今日は何をしていたの?」
メビウス1も最初こそ事細かに話していたが毎日聞かれているとさすがに話すこともなくなる。ただ家に居て、家事をして、たまに買い物に出て。
確かに、たまには変化が起こることもある。道で転けて怪我をしたとか――こんなことはスカイアイが心配するから決して言わないが――いつも行っている店で抽選会をしていて、たまたまそれが当たったとか。けれども、ほんの少しのハプニングを面白おかしく何十倍にも膨らます話術などメビウス1にはないのである。だから必然的に「昨日と同じだよ」とか「いつも通りだよ」と言うしかない。
それでもスカイアイは「同じでいいから教えて」と言う。
「……だから、昨日と代わり映えない一日だったし。それよりスカイアイの話が聞きたいんだよ」
「俺は丸一日仕事をしていただけだしな。それに仕事の内容を軍を辞めた君に話すわけにはいかない」
そう返されるとメビウス1にはどうしようもなくなる。
「でも……」
「それに――仕事終わりのこの時間を、俺は一日で一番楽しみにしているんだ。……君の声がきけるから」
そんなことを耳元で囁かないでほしい。
(ずるいよ。俺だってスカイアイの声がききたいのに……)
不公平感に唇を尖らす。それでも、スカイアイに続きを促されると代わり映えのない日常をペラペラと喋ってしまうのだった。

そして電話の終わり。
スカイアイのいつもの言葉。
「おやすみメビウス1、いい夢を。――愛してるよ」
この言葉を聞くことが、メビウス1の一番の楽しみなのだった。