小話まとめ2 - 4/9

『熱伝導』

 

照明の消えた暗い寝室に足を忍ばせて入る。
布団の中には先住民がいる。できるだけサッと潜り込んでベッドの中の彼を抱きしめた。
温かい。
寒い外気に冷えた身体には天国かと思うほどだ。
腕の中のメビウス1がもぞもぞと身じろぎした。
「んん、……足…………冷たい」
ぴったりと身体をくっつけたら眠そうな声で抗議された。眠い時の彼は普段よりも更に数段ゆっくりした話し方になる。寝ぼけている彼は素直で、とても可愛い。それがたとえ文句でも。
「すまん、メビウス1。起きていたのか」
「ん……」
二人で寝るには少々手狭なセミダブルのベッド。これはスカイアイが元から使っていたベッドだ。メビウス1がこの家に住むようになってからはいつもこのベッドで一緒に寝ている。
メビウス1の力の抜けた身体を抱き寄せた。ちょうど顎の下辺りに来る柔らかい髪をかき混ぜるように撫でて、シャンプーの香りがするつむじにキスした。シャンプーにこだわりのないメビウス1はスカイアイと同じものを使っている。それなのに彼から感じる匂いはスカイアイと全く同じにはならなかった。メビウス1はよく、スカイアイを「いい匂い」だと言ってくれるが、スカイアイからすればメビウス1こそ甘くてかぐわしい、いい香りがすると感じる。
スンスンと頭の匂いを嗅いでいたら、恥ずかしがったメビウス1が「嗅ぐな」と腕でこちらの身体をぐいぐい押してきた。しかし、スカイアイの身体は動かず、メビウス1の方が遠ざかっていく。狭いベッドだから布団からはみ出そうになっている。
スカイアイは慌てて言った。
「すまん、君の匂いが好きなんだ。家に帰ってきた実感がして、落ち着く」
すると、メビウス1はこちらを押すのを止めて、逆に腕を背中に回してきた。そろそろと控えめに抱きついてくる身体が愛おしくて強く抱きしめ返す。
メビウス1が温かい足先をスカイアイの足に乗せた。さっきは冷たいと文句を言っていたのに。
お互いの足を絡め合う。冷えた身体に彼の優しさと熱が伝わってじわじわと温かくなってくる。
これだから、冬という季節が好きなんだ。
二人で暮らすにあたって、このセミダブルのベッドをもっと大きなものに買い換えようと考えていたが、その決意が揺らいでくるスカイアイだった。