小話まとめ2 - 2/9

『恋の気配』

 

「スカイアイは、どうしてそんなに親身になってくれるんだ」
メビウス1にそう問われたとき、俺はとっさに答えられなかった。彼に抱くこの気持ちを見透かされたような気がしたからだ。

彼に初めて会ってからずっと感じていた胸のざわめきが何なのか俺はわからずにいた。
青い空に溶けるような雰囲気を持った彼から目が離せなかった。ともすれば本当に空へ消えていきそうな彼をこの現世に繋ぎ止めるために俺は必死だった。
それだけ一人の人間に入れ込んでいる時点でおかしいと感じ取るべきだった。

ひょんな切っ掛けからメビウス1に公用語の発音をレクチャーすることになった。
メビウス1の発音が下手なのは事実だったが、実は俺自身、彼のたどたどしい発音が嫌いではなかった。一生懸命な感じがして微笑ましいし、聞いていて和む。だが、そうは思わない人間もいる。
発音が原因で彼がこれ以上傷つかないようにしたかった。
しかしそれは意図せずとんでもないものを掘り起こす結果になった。
部屋で二人、メビウス1とお互いの顔を見つめ合う。恥ずかしいのか少し反らされた目。ほんのり染まった頬。その唇から控えめにちらりと覗く白い歯と、赤い舌。
それを見た途端、俺の身体は発火するように熱くなった。
彼のその赤い舌から目が離せない。今すぐかぶりつきたい。
俺はメビウス1に欲情していた。
これまで彼に感じていたよくわからない感情に名前がついた瞬間だった。
――めまいがした。彼は男だ。いや、そもそも彼個人が抱える問題が大きくて性別など些細なことだとすら思える。彼のバックボーンもそうだが、これから彼が軍にとって重要な存在になり得るのは想像に難くない。
そんな相手との恋は前途多難だろう。
「舌を出せ」と言ったのは自分だが、まさかそれでこんなことになるなんて思わなかった。

「スカイアイは、どうしてそんなに親身になってくれるんだ」
と彼は言う。
その純粋な輝きに俺は何も返せない。その瞳は透き通った泉のようで、俺をたじろがせるには十分な美しさだったから。