小話まとめ2 - 9/9

『空を見上げる』

 

二人で街を歩いていた。
冬の空は、オレンジやピンクや群青に染まっている。それが気になるのかメビウス1は、さっきから上ばかり見て歩いている。
彼は空を眺めるのが好きだ。出会った時からそうだった。雲や鳥や、飛行機が飛んでいく様子などを飽きるまでただじっと眺める。スカイアイとて空が好きでこの仕事を選んだのだから気持ちはわかる。子供の頃には今の彼のように空を見上げたものだった。しかし、大人になった今もこうして空への純粋な興味を失わない彼の感性は貴重なものといえるのかもしれなかった。
感心はするが、それはそれ。道行く誰かにぶつからないか、足下が疎かになって躓かないか心配で、隣を歩くメビウス1をハラハラして見てしまう。
交差点で停止した。メビウス1は上を見上げていて歩みを止めない。
「危ない!」
車道へ一歩を踏み出すメビウス1の手首を強く掴んだ。メビウス1は急にどうしたんだと言いたげな顔でこちらを見た。
「信号は赤だぞ、まったく……。上ばかり見ていないでちゃんと前も見なさい」
心配は的中し、スカイアイはため息を吐いた。
メビウス1は目を瞬かせて前を見て、ようやく赤信号を認識したらしい。「空がきれいだったから、つい」と失敗をごまかして笑った。
「そんな風で、これまで無事でいられたのが不思議だよ」
よく車にひかれなかったものだと呆れてみせた。今だって自分が注意していなければどうなっていたか。スカイアイは心配で掴んだ手首をまだ離せないでいる。それを見てメビウス1は笑った。
「一人の時はさすがに上向いて歩いたりしないよ。――今は、スカイアイが隣にいるから」
暗に甘えられていたのだと知って、スカイアイは小言を封じた。
メビウス1の手を柔らかく握る。冷たいそれをコートのポケットに突っ込んだ。
「……これで、いくらでも空を見られるだろう」
ちょうど信号が青に変わる。スカイアイはゆっくりと一歩を踏み出した。