140字ssまとめ 2

『たった一分でいい』

掩護を求める無線がひっきりなしに入る。敵も味方も入り乱れて、あちこちで花火が上がる。天上で繰り広げられる命を賭けたお祭り騒ぎ。体が震える。恐怖ではなく。こんなとき、自分の罪深さを感じる。
さぁ、どこから片付けようか。ペロリと唇をなめた。
たった一分あればいい。この戦況を覆してみせる。

 

 

『最後の言葉』

「貴方に会えてよかった」それが君の最後の言葉。少し寂しさの残る笑み。
君がこの戦争で得たものはなんだろうな。――名誉か。君にとっては一番必要のないものだろうに。それでも君は、天翔ける流星のごとく人々の願いを聞き届けて奇跡を起こした。俺の願いもまた君に届くだろうか。
「どうか、幸せに」

 

 

『どうにかなってしまいそう』

少しザラザラした貴方の声が、耳に直接吹き込まれる。上に下にメチャクチャにかき回され、意識が遠くなる。
《チェック・シックス》
貴方が後ろを見ていてくれるから、俺は目の前だけに意識を集中する。ギリギリまで引き付けて射出する槍。目蓋の裏に赤い火花。
ああ、もう、どうにかなってしまいそう。

 

 

『隣に違和感、視界に不具合』

ぎゅっと握られた手に飛び上がりそうなほどびっくりした。右手が熱い。汗が滲む。手の平がベタついていないか心配になって、さらに汗をかく悪循環。
ドキドキして隣を見上げたら、視界が塞がれた。目の前がぼやけすぎて視界が定まらない。ああ、どアップなんだと理解した時には唇が何かで塞がれていた。

 

 

『過保護だね』

雨上がりの濡れたコンクリートの匂い。雨雲から晴れ間が覗き、水溜まりに反射する。
差し出される手のひら。
「そんな風にしなくても平気だって」
「でも、君は何もないところで転ぶし、ボーッと空を見て赤信号に突っ込むだろ」
子供あつかいに唇を尖らせる。「そんなことない」と言えないのがツラい。

 

 

『進化』

彼は強い。
そして戦えば戦うほどに経験を積み、強くなっていく。荒削りだった飛び方が、無駄なく、美しく洗練されていく。この戦争はまるで天が彼に与えた舞台のよう。黄色は、彼に飛び方を教える教師のようだ。
彼はどこまで強くなるのだろう。そら恐ろしいほど、若きその背に無限の可能性を秘めて。

 

 

『逃げるなよ、追いかけたくなるだろ』

君を諦めようと思ったことなどない。だって、好きになってくれるなと言わんばかりに逃げるから。逃げられると追いたくなる。そういう性質を人間は持っているんだ。
君が逃げるなら、どこまでも追いかける。それもまた楽しいかもしれないね。君を追う間は、君のことだけを考えていられるんだから……。

 

 

『死ぬまでの君を全てください』

人は産まれおちた瞬間から死に向かっている。死ぬまでの時間を人生というなら、それが例えほんのわずかな時間でも、どうか隣に居させてほしい。君の人生が独りでなくなるなら俺は幸福だ。
「死ぬな」とは言えない。君も俺も、明日の戦場で死ぬかもしれない。だから死ぬまでの時間を生きよう。――共に。

 

 

『水を飲む』

腕が身体にまわりこんで拘束される。顔に降り注ぐ唇。額に、鼻に、頬に、そして唇へ。口づけを施されるたびに胸のなかを温かいものが満たす。切なくなるほどに優しくて、なのに愛おしさが溢れて苦しくなる。
唇から唇へ注がれる水。喉を滑り落ちていくそれは甘露のよう。
窒息しても貴方の愛なら本望だ。

 

 

『給料三ヶ月分の、』

左の薬指が重い。
これが一体いくらなのか疎い自分にはわからない。
「こんなもので縛れるとは思わない。君は自由だ」
俺を契約で縛っておきながらそんなことを言う貴方自身、その矛盾に気づいている。でもこれは俺が遥か彼方まで飛んでいかないための重石だ。いつでも貴方の元へ帰れるようにするための。

 

 

『明日死ぬんだってさ、』※死にネタ

「死神」とあだ名された自分が死ぬらしい。震える身体を貴方が抱きしめる。これは沢山の人を殺してきた罰だろうか。死神のままでいれば死ぬのなんて怖くなかったのに。
愛を知らない死神に、そうやって愛を注いで、ただの人間に戻してしまったのは貴方だ。だから責任をとって最期の時までそばにいて。