800字チャレンジ - 2/16

『人間×死神』

ある日、帰宅したら、ベッドに男が寝ていた。
泥棒かと驚いて問い詰めたら、眠気まなこの青年は、死神だと自称したのだ。そんな馬鹿なと思ったのだが、好きに体を消したり現れたりする芸を見せられては、信じるしかなかった。
「俺は死ぬのか」
それに死神は答えなかった。いつ死ぬか、死ぬ原因などは当事者に話してはいけない決まりがある、とのことだった。「ホントは、姿も見せちゃいけないんだけど……」と、死神は落ち込んだ。つい、眠くてベッドで寝たら気が弛んで姿を現してしまったと、マヌケな顛末を話した。自分は落ちこぼれなのだと言う。
「今度、魂を取ってこれなかったら罰をうけなきゃいけない」
「どんな罰?」
死神はわからないと答えた。何か、とんでもない罰が待っているようで、死神は怯えていた。それを見ていると不憫な気持ちになり「じゃあ、俺の魂をしっかり持っていけよ」と慰めてしまった。俺もたいがいバカだ。
それから俺と死神の奇妙な二人暮らしが始まった。俺の作ったオムレツをうまそうに頬張る死神を見ていると、不思議と和み、もうすぐ死ぬのだと言うのに満たされた気持ちになっていた。
その日は突然やってきた。人間のフリをした死神と街を歩いている時だった。暴走車が突っ込んできて、俺はとっさに死神を庇った。――本当に馬鹿な話だ。
死神の涙が、地面に横たわる俺の顔に降り注ぐ。
「な、なんで?なんで、俺なんか庇ったの……?」
死神も、詳しい死因は知らなかったらしい。
「さあ……、体が動いたんだよ。約束したよな、俺の、魂をやるって……。ちゃんと、落とさず、持っていけ……よ」
その後は覚えていない。

気がついたら、俺は病院のベッドにいた。
マヌケな死神は魂を取るのに失敗したのか、それとも……。
ただ俺は死神がひどい目にあっていないか、そればかりが気になっていた。

退院して自宅に戻ると死神が座っていた。
「もう死神じゃないよ」
死神は笑う。
人間になって、死ぬ恐怖と痛みを知るのが罰らしい。
「なんて幸せな罰なんだろうね」
俺の腕の中で、青年は微笑んだ。