『残業帰りのサラリーマン×コンビニ店員』
今日も帰りが遅くなってしまった。疲れて今すぐにでも眠りたいが、1日ろくに食事もしていない。せめて何か、なんでもいいから胃袋におさめようと、駅前のコンビニによる。
適当に売れ残りの弁当をつかみ、レジに持っていく。店員はアルバイトと思われる若い青年だ。毎日、この時間、同じ青年がレジをしているのだが、彼はいつも何かを忘れる。おしぼりを入れ忘れるのはたいしたことじゃないが、釣りを間違えられたこともある。今日は箸を入れ忘れたらしい。俺は出口前に中身をチェックするクセができていたから、すぐに気がついて、彼に伝えた。
「す、すみません」
彼はいつもおどおどした様子で謝る。
俺はそんな彼に、はじめは多少イラついた。俺も仕事帰りで疲れていて、他人のミスを許容する心の余裕などなかった。それを態度に出さないだけマシだっただろうと思う。
しかしある時、深夜のコンビニで、彼が柄シャツを着た男にひどく怒鳴られていたところに居合わせた。彼は平身低頭して謝っていたが、男はさらに声を荒げ、彼に罵詈雑言を浴びせた。深夜のワンオペ。他に頼るものもいない。俺は彼が不憫に思え、また、彼を怒鳴る男が、彼に対してイラつきを感じていた自分の心、そのもののように思えて不快になった。俺は彼と男の間に割って入り、男をなだめた。簡単には引いてくれなかったが、警察を呼ぶと言えば、やっと帰っていった。
青年は俺に感謝した。「ありがとうございます」と、何度も頭を下げた。決して悪い子じゃない。ただ、ちょっと、注意力散漫で要領が悪いだけなのだ。
そんなことがあってから、コンビニで彼に会うと、彼の方から「お疲れ様です」と笑顔を向けられるようになった。少し照れたような、控えめな微笑み。疲れた体に、彼の笑顔とねぎらいは染みわたった。
そして、一日の終わりの、この時間を待ち遠しく思うようになった。
今日は何を忘れているのかな、などと、日々のささやかな楽しみとして。