小話まとめ - 9/10

『シャワー@人間』

 

指が優しく揉むように頭皮をたどる。
俺は顎を上げて、水がかからないように目を閉じた。
「メビウス1、痒いところはないか?」
スカイアイが洗いながら言う。美容院でよく聞くセリフだ。スカイアイも自分で言いながら思い出したのかもしれない。少し笑う気配がする。こういうとき「ここが痒いです」と正直に言える人ってどのくらいいるのだろうか。などと思いながら俺はいつものごとくノーと否定し、息を吐いた。
「気持ちいい?」
「うん」
強すぎず弱すぎず、絶妙な力加減で与えられるマッサージ。スカイアイがしてくれるシャンプーはすごく気持ちがいい。このまま寝てしまいたいほどに。
大きな手が――もっと強い力が出せるのに、あくまでも優しく触れてくる感触は、大人になるとなかなか味わえない。それこそマッサージ店に行ったりしない限り。
「流すよ」
温かいシャワーをかけられる。
背中に泡が垂れて伝っていく感覚に、背筋を震わせた。
あらわになった額に唇の感触がしたら仕上げの合図だ。
「はい、終わり」
チュッと音を立てて離れていく。ずっと閉じていた目を開けると天井のライトが眩しくて少しクラっとした。
「じゃあ、今度は俺が……」
場所を交代して今度はスカイアイの髪を俺が洗う。洗われるのも気持ちがよくて好きだけど、彼を洗うのも、これはこれでなんだか満たされる。スカイアイがリラックスして身を預けてくれる。それが嬉しいのかもしれない。
「うっ、……目に、泡が……」
「わ、ごめん!」
スカイアイが痛がったため、俺は焦ってシャワーを顔面にかけてしまった。今度はシャワーのお湯が鼻に入ったらしく、スカイアイが盛大にむせる。
「メビウス1……」
ふるふると犬のように頭を振って水滴を飛ばすスカイアイに若干恨めしげな目で見られ、俺は謝るしかない。
「ご、ごめん……」
「いいよ」
ふ、と息を吐くように笑う。その「仕方ないな」と言いたげな苦笑にドキッとする。濡れた髪を指で乱雑にかき上げる仕草。水滴がポタポタと肌に落ちる。水もしたたる……ってやつだ。
こんな風に、俺が何かを失敗しても許してくれるときの彼の顔が、いつも最高に好きだった。
二人で交互にシャンプーしたあと、一緒にバスタブにつかる。お湯を浅くはっても大の男が二人で入れば胸にまで達する。経済的だ。バスタブはものすごく狭い。が、それがまたいい。ぴったりくっついてスカイアイに背中を預けて温まると気持ちよくて、たまに本当に寝てしまう。
スカイアイは常にシャワーがメインで、バスタブに湯をはってつかる習慣はあまりないようだったが、俺がいつも湯につかっているから感化されてしまったようだ。
長い長い息を吐く。まるで魂まで抜けていってしまうような。
こうして二人で風呂に入るのが俺にとっては至福の時間だった。スカイアイにとってもそうだといいな。そう思って彼に寄りかかると、背後からスカイアイの腕が伸びてきて俺をきゅっと抱きしめた。