バースデー・ミッション - 21/24

21

「で、できた……!」
黄色いスポンジを白く艶やかな生クリームが覆う。
その上を飾るのは、ルビーみたいなイチゴの宝石だ。
自分でも驚くほど完璧な出来ばえだった。
キッチンの側でソワソワしていたスカイアイが我慢できなくなったのか「凄いじゃないか!」と言って顔を出した。
「美味しそうだな」
「うん……自分でもこんなに上手く出来るなんてビックリした」
材料から集めて初めて作ったケーキ。レシピを見ながらだけど慎重に作業したせいか、さしたる失敗もなく完成した。素人が作ったものだから多少は不恰好なところもあるが、素材にこだわった味はきっと美味しいはずだ。
だけど、食べる前にひとつ、気になることがある。
「スカイアイ……」
「ん?」
「もしかして、生クリームを買い忘れていたのに気づいていた?」
「ああ……。君が出かけている間に買っておいた」
「そうなんだ……ありがとう。俺ってマヌケだなぁ」
ちょっと情けなさや恥ずかしさが沸き上がって、メビウス1は苦笑して頭をかいた。
スカイアイのためにと頑張っていたはずが、結局そのスカイアイに助けられているのだからどうしようもない。
「そんなことはないよ、メビウス1」
スカイアイがメビウス1の手を握った。
「え……」
「こんなに傷をつけてまで頑張ってくれたんだ。感謝している」
スカイアイはメビウス1の手についた傷に、どこからか取り出した絆創膏を貼っていった。
「た、大したことないよ」
「君はいつも、苦労を厭わず一生懸命だよな」
「それは……」
スカイアイのことが好きだからだよ――と、口から出そうになったものを、すんでのところで飲み込んだ。
全てはスカイアイに喜んでほしかったから。だけどそれを告げるのは、ちょっと押し付けがましい気もした。あなたの為にやった、なんて。
(俺が好きでやったことだし……)
頭の中でぐるぐる考えているとスカイアイがクスッと笑う気配がした。
「そういうところが好きなんだ」
「えっ?」
ビックリして顔をあげたら腰を抱き寄せられた。スカイアイの広い胸に飛び込むように着地する。
すぐ数センチ先にスカイアイの青い瞳があって胸が高鳴った。
「君の作ったものなら、なんでも美味しいと思うけれど……」
スカイアイは出来上がったショートケーキからイチゴを一粒摘まみ、メビウス1の口元に持っていった。唇にチョン、と冷たいイチゴが触れる。
見上げるとスカイアイの青い瞳が見返してくる。
促されるまま、メビウス1は薄く口を開いてイチゴを迎え入れた。コロンと口の中におさまったイチゴの粒々とした種の感触が舌に触れる。噛んだとたんに広がる果汁。ほんのり甘い生クリームと、イチゴの酸っぱさのバランスが絶妙だった。
これは美味しい――。
イチゴの旨さに意識を持っていかれた瞬間に、唇を塞がれていた。
「んん……っ」
口の中を遠慮なく蹂躙した舌は、メビウス1がかじった食べかけのイチゴを回収して去っていった。
「うん……美味い」
メビウス1からイチゴを奪っていった主は、しばらくイチゴを咀嚼して味わった後にそんな感想をのたまった。
まさか自分を経由するとは思わなかったメビウス1は真っ赤になってしまった。
「す、スポンジも頑張ったから食べて……!」
テンパったメビウス1は慌ててフォークで生クリームのたっぷり乗ったスポンジ部分を切り分け、スカイアイの口元へ差し出した。スカイアイはそれを平然と頬張り「美味いよ」とにこやかに感想を述べた。
恥ずかしくて慌てているのは自分だけで、少し面白くない気もするが仕方ない。今日は彼が主役だから。次を口に運べ、とねだる彼を拒むことはできないのだ。
スカイアイの口元にケーキを運びながらメビウス1はハッと思い出した。
そうだ、肝心なことを言うの忘れていた。
「スカイアイ、誕生日おめでとう」
「ありがとう、メビウス1」
「……今日は、俺とあなたが出会った日でもあるよね」
「そういえばそうだな」
9月19日。
それは雲の上での出会いだった。
スカイアイの声は今も耳に残っている。
自分達にはふさわしい出会い方だったように思う。
「あなたに会えて本当によかった」
過去を振り返ると、いろいろなことがあった。その、どんなシーンにもスカイアイが共にいてくれた。
恋人としてだけじゃなく、たんなる友人や仕事上のパートナーだった時も。スカイアイの揺るがない信念と、深い度量。優しさ。全てを、人間として尊敬している。
しかしスカイアイは「それは俺のセリフだよ」と言ってメビウス1の肩を抱いた。
正面から瞳を覗き込む。至近距離で見つめ合う。
スカイアイはメビウス1にとっておきの内緒話をするみたいにささやいた。
「あの時の君との出会いが、神様からのプレゼントだったんじゃないかって思うんだ」

 

Mission accomplished.

(ベストエンド A)

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