ロン!

「ロン!」
オメガ1は高らかに宣言した。
麻雀をやっていて一番楽しくて心が躍る瞬間だった。
「うう……」
反対に、向かいに座ったメビウス1は涙目になっている。何も警戒せずに当たり牌を切ったのだから当然の結果だ。
オメガ1は鼻歌交じりにメビウス1から点棒を徴収した。

メビウス1とは二度と麻雀しない――そう誓った前回。
だが麻雀をしようと面子を募っている時に、捨てられた犬みたいな顔でいるのを見るとさすがに良心も痛む。
しょうがないからまた誘ってやった。ルールは把握しただろうし。
またメビウス1の一人勝ちになるかと始めは警戒していたのだが、どうしたことか。今回のメビウス1は負けまくっている。
やはりあれは単なるビギナーズラックだったのか?
それともサポートのスカイアイがいないせいか。
あの豪運がなければメビウス1も所詮はただの初心者。危険な牌を何も考えずに切ってしまい、カモにされているというわけだ。
もうメビウス1の持ち点は赤いポッチのついた千点棒のみ。涙ぐみたくもなるだろう。
逆にオメガ1はツキにツキまくっていた。欲しい牌がどんどん来る。笑いが止まらんとはこのことだ。
「あれ、メビウス1こんなところにいたのか。……麻雀やってるのかい?」
ひょっこりやってきたのはスカイアイだ。まったく、こいつはいつもどうやってメビウス1の気配を辿ってくるのか。メビウス1が一人でいると必ずどこかから湧いてきやがる。
「スカイアイ……」
「どうしたメビウス1、そんな涙目で」
スカイアイは驚いた顔で近寄ってきた。
(――しまった! こいつはまずいぞ)
オメガ1は冷や汗を流した。
今の状況はオメガ1たちが初心者のメビウス1を食い物にしているように見えるかもしれない。前回のこともあるから余計に。まるで負けた腹いせにいじめていると思われかねない。決してそんな意図はなかったのだが。まぁ、ほんの少しでも“いい気味だ”と思わなかったと言ったら嘘になるが。
メビウス1がスカイアイに訴える。
「ぜんぜん勝てないんだ」
「君の持ち点は……あと千点か。メビウス1、千点あればリーチできる。まだ東場だから勝てば逆転の可能性は十分あるぞ」
そう言ってスカイアイはメビウス1を励ました。しかし、メビウス1は力なく首を振る。
「もうムリだよ……俺なんて」
すっかりしょげて戦意を失ってしまっている。
「スカイアイ、代わりに打って……」
「いいのかい?」
メビウス1はこっくりと頷いた。スカイアイはメビウス1の肩を慰めるように叩いた。
「メビウス1、麻雀はただ攻めるだけじゃなくて守備も同じくらい大切なんだよ。……これからそれを見せよう」
そう言って卓についたスカイアイは、きっちりと締めていたネクタイを少し緩め、シャツの腕をまくるとオメガ1に向かって不適に笑ってみせた。
――まさかこの男はたった千点から巻き返す気なのか?
だがスカイアイは以前、麻雀は不得意だと言っていた。それを信じて力で押すしかない。
(みてろ、あっという間に箱にしてやるぜ!)
力を込めて牌をかき混ぜた。

千点程度すぐ消し飛ぶ――そう思っていたのだが、スカイアイはしぶとかった。
初心者のメビウス1がやった危険牌を切るなんて真似はさすがにしなかった。千点では一度でもロンされれば終わりである。守備をかためるのは当然だろう。だが麻雀は当たらなければいいというわけではない。誰かがツモあがりすれば点は減ってしまう。スカイアイはそれも防がねばならなかった。
「いいかいメビウス1。相手が欲しがっている牌は捨てちゃだめだ」
「そんなのわからないよ……」
「いいや。相手の捨て牌――“河”と言うんだが、それをよく見るんだ。捨てられた牌は使わなかった牌。つまりそこから逆算すると相手の手牌がうっすらと見えてくる。とても重要な情報なんだよ」
スカイアイは自分の手配を組みながらメビウス1にレクチャーしている。そこには最下位の焦りはまったく感じられなかった。
(このやろう、余裕ぶっこきやがって)
オメガ1は何としてもスカイアイに勝ちたくなった。格好をつけている鼻っ柱をへし折りたい。
たがしかしスカイアイの守備は堅く、決して他家に振り込まなかった。そのうえ誰かが上がりそうな気配を見せるとポンやチーで邪魔をする。高そうな手を組んでいる奴がいれば安そうな奴にアシストして上がらせる……など。自らの被害を最小限にしつつ場をコントロールしていた。こんな打ち方は初心者にはできない。
おまけに――。
「それ、ロンだ」
スカイアイが宣言した。
オメガ1の捨て牌だった。
リーチの宣言がなかったため、完全に油断していた。スカイアイは黙ってテンパイしていたのだ。
「く……っ!」
オメガ1はスカイアイに満貫を支払う羽目になった。
そこからはもうスカイアイの独壇場だった。千点という縛りもなくなったスカイアイは守りにこだわらず自由に手牌を作ることが出来るようになり、さらにその手腕を発揮しだした。
「メビウス1、自分の手配が悪い時は無理に攻めず、攻められる手配の時は思い切って打つんだ。怖がらずにね。麻雀は、その押し引きの見極めが肝心なんだよ」
その言葉通り、スカイアイが攻める時は必ず満貫以上で和了した。それもオメガ1から取るのだ。狙ったように。
(いや、“ように”じゃねぇ。俺を狙ってやがるんだ、こいつは)
何故なら一番勝っていたのがオメガ1だったからだ。すなわちメビウス1からもぎ取った点数である。
オメガ1は対面にいるスカイアイを睨みつけた。スカイアイは視線に気づくとにやりと口角を上げる。
それを見て頭に血が昇ったオメガ1は、卓を手で殴りつけた。雀牌が転がり落ちる。
「スカイアイてめぇ! 何が『麻雀は得意じゃない』だ。相当打てるだろうが!」
怒鳴り声にメビウス1がビクリと肩をすくめた。言われた当のスカイアイは飄々としている。
「確かに『得意ではない』と言ったが、『下手だ』と言った覚えはないな」
「この……っ、ペテン師め!」
転がり落ちた雀牌をスカイアイはゆっくりと拾い上げた。
「運任せの麻雀が好きじゃないだけさ。……さあ、続きをしようか」
オメガ1はスカイアイに投げつけるように点棒を払い、かき混ぜる牌に腹立たしさをぶつけた。

結局、終わってみればスカイアイの一人勝ち。
あの千点から見事に挽回してみせた。
「スカイアイ、すごい!」
メビウス1が無邪気に拍手する。興奮して頬を染めている様は子供のようだった。
そんなメビウス1の純粋さが羨ましい。
オメガ1は素直に賞賛する気にはとてもなれなかった。

「くそぅ……お前ら二人……例え人数が足りなくっても、金輪際! 二度とお前らと麻雀なんかしねぇからな!」

そんなオメガ1の叫びが虚しく基地にこだましたという。

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