140字ssまとめ3

『愛される覚悟をしておいて』

朝もやの中、彼は旅立つ。すっと背を伸ばし未来だけを見据えた彼の手を引き寄せて抱きしめた。
「戻ってきたら遠慮はしない」
彼に爪痕を残しておきたくて告げた。ずっと我慢してきた。あと少しならまだ我慢できる。だが、次に俺の元に戻ってきた時には全力で口説く。覚悟をしておいてくれ。

 

『おいしいごはんになれるといいけど』

石鹸を丁寧に泡立てて全身に伸ばす。首筋から腕を通り、あまり筋肉のつかない胸や腹、へその窪みまで丁寧に洗う。
彼がどこまで触れるのかわからないから。いつだって「そんな所まで!?」と驚かされるのだから。
あの人のために準備をする。今日はどこに触れられるのか胸を高鳴らせながら。

 

『受け止めてくれるのはあなただけ』

雪でも降っているのか、とても静かだ。真夜中のスカイアイの部屋は隔絶された、まるで二人だけの世界。布団の中は暖かくて、頭を撫でてくれる手は優しい。死の恐怖、明日への不安――沢山の重圧がその手に溶かされてどこかへ消えていく。そうして目蓋は重くなる。
貴方だけが俺を眠らせてくれるんだ。

 

『とっちゃ、やだ。』

カメラを向けると彼は「ダメ!」と言って顔を腕で隠した。
自分の容姿に自信がない彼は写真を撮られるのを非常に嫌がる。だからスマホのアルバムには寝顔ばかりがファイリングされていく。彼の嫌がることはできればしたくないのだが、一人の時にそれをこっそり眺めるのくらいは、どうか許してほしい。

 

『愛する臆病者』

「好きだよ」
俺がそう告げると、彼は頬をうっすらと染めて視線を左右に惑わせた。うつむきがちの薄い色のまつ毛。かさついた唇を僅かに開いて何かを言いかけ、たっぷりと躊躇いを見せてから「うん」と小さく頷く。
可愛らしい反応にいつも胸が高鳴る。たとえ「俺も好きだよ」と返ってこなくても。

 

『新婚ごっこ』

家に帰ると彼がエプロン姿で出迎えてくれた。
「お疲れ様。ご飯食べる? それとも先にお風呂にはいる……」
そこまで言って彼は口をつぐんだ。まるで新婚さんみたいだなと感じたのは俺だけではなかったらしい。
彼の赤い耳に唇を寄せて囁いた。
「――そのセリフの続きは言ってくれないのかい?」

 

『甘やかせる権利』

今日はメビウス1の誕生日。思う存分甘やかそうとウキウキして聞いた。
「今日は何でも言うことを聞くよ」
「んーと……じゃあ寝てくれる? 貴方はいつも働き過ぎだから」
そう言って膝枕をしてくれた。なんてことだ。逆に俺が甘やかされているだと?
下から見上げた彼は、幸せそうに微笑んだ。

 

『共犯者』

沢山の敵を屠って「死神」とあだ名された彼。時折、罪の意識から悪夢を見るのを知っている。俺に出来るのは彼をゆっくり眠らせることくらいだ。
直接手を下してはいないが、彼に戦いを命じている自分の方が罪は深く、大きいはずだ。苦しみを肩代わり出来ない代わりに共犯者であることを、今は喜ぼう。

 

『これだから酔っ払いは!』

すっかり脱力した体をこちらに預ける彼。頭をこちらに擦り付けながら「アタマなでなでして?」と舌足らずに訴える。
ああ、まったく!
誰だ、彼をこんなに酔わせたのは。
天を仰いでなじりたくなる。決して腹を立てているわけではなく。あまりの可愛らしさと愛おしさに白旗を上げるしかなかった。

 

『僕の居場所』

じっと見つめていると、気づいたスカイアイが手招きした。喜びを無表情の下に隠しながらソファーに近寄る。隣に腰を下ろすと肩を抱き寄せられた。こんなにも近くで大好きな青い瞳を見て、見つめ合って。包まれた身体が心まで包みこまれたみたいに温かかった。
ああ――ここが俺の帰る場所なんだ。

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