小話まとめ - 5/5

『彼の癖』

 背後から犯される。
 掴まれた両手首の骨がぎしりと悲鳴を上げた。強く後ろに引っ張られて背中が反る。尻を突き出すような格好になって結合がより深くなった。トリガーのうめき声が卑猥な水音でかき消される。
 逃げるつもりはないのに、なぜ拘束するのか。
 姿勢を保っていられず、頭からシーツに倒れ込んだ。髪を掴んだ頭を乱暴にマットレスに押し付けられる。唇を噛んで、ただベッドの上で耐え忍ぶ。
 嵐のような時が終わり、湿ったシーツに甘苦しく痺れた身体を投げ出した。額の汗を手の甲で拭うと手首にできた痣が目に入った。両手首にうっ血の痕。あまりにも強く掴まれていたためだ。数日は消えないだろう。
 この痣を仲間にバレないように隠すのがいつも大変だった。包帯をすると怪我をしたのかと心配されるから、長袖を着たり、リストバンドをしたり。だけど、どこまで隠し通せているだろう。
 トリガーはため息を吐いて、少しでも早く痕が消えるように手首をさすった。バンドッグがそれを横目でちらりと見やる。この痕を見ても、この男は謝りもしないし毎回手首を掴むのをやめない。
 癖なのか?
 それとも何かの意図が?
 トリガーはバンドッグに見せつけるように、執拗に手首をこすった。隣にいるバンドッグは見ないふりをして煙草に火をつけた。絶対に気づいているくせに。
 ――ムカつく。
 トリガーは無駄なアピールをやめてバンドッグに背を向けて毛布をかぶった。イライラする――ああ、この男が何も言わないのはいつものことなのに。それを素直に聞けない自分と、まるで所有の証のような痣をつけられることが心底嫌ではない自分に。
 バンドッグの手がトリガーの髪をくしゃりと撫でた。事後のベッドの上で満足そうに煙草を吸いながらトリガーの髪を手慰みに撫でるのもまた、彼の癖だった。
 犬を可愛がるように撫でられて、ささくれだった心が凪いでいく。
 この男とのセックスはいつもそうだ。
 つらくて、くるしい。それなのに。
 呼び出されれば抗えない。
 甘い毒のように。

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