『ジャケットにまつわる話』
「あんたに、これ、返す」
トリガーが差し出してきたのは、茶色のフライトジャケットだった。
444基地にいたとき、病み上がりのトリガーがくしゃみをしていたから身体を冷やさないように貸してやったものだ。それ以降、まるで最初から自分の持ち物だったかのようにそれをずっと羽織っていた。こいつの背丈には少し大きなジャケットを。
それを今さら返すと言う。何を考えているのかわからん奴だと、バンドッグはため息を吐いた。
「散々着ておいて……それはもうお前の物のようなもんだろうが。今さら返されてもな」
「いや、違うんだ。一度あんたに返すけど、しばらくしたらまた俺に返してほしい」
バンドッグは眉間に深い縦皺を刻んだ。
「……わかるように喋れ」
「ええっと、その……このフライトジャケット、もうあんたの匂いがしなくなったんだ。だから……」
至極残念そうに言うトリガーに頭を抱えた。酷いめまいと頭痛がバンドッグを襲う。
こいつは何を言っているんだ?
再び匂いをつけた上で返せと?
「お前、自分が何を言っているのかわかっているのか……?」
「なんか変なこと言ったか?」
トリガーはきょとんとしている。
無自覚ほど罪深いことはない。よくそんなセリフを平然と言えたものだ。バンドッグは羞恥心を奥歯で噛み殺した。
ジャケットを持った腕ごと引き寄せる。顎を掴んで上を向かせ、至近距離で囁いた。
「わかった。ジャケットは預かってやる」
喜びで顔をほころばせるトリガーの唇を塞いだ。そして、そのまま服を脱がせる。
「え、ちょっ……なんで!?」
動揺するトリガーを見ると胸のすく思いがする。自分だけが動揺したままでは不公平だ。トリガーにも相応の代償を支払ってもらわねば。
――俺の匂いが欲しいなら、いくらでもくれてやる。
悶えるトリガーの首筋に牙を立てて噛みつき、身体の奥深くに所有の証を叩きつける。ジャケットだけと言わず、その肌に直接匂いを刻みつけてやった。

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