小話まとめ - 2/6

『虹と水たまり』

 その日は朝からずっと雨が降っていた。雨が上がった隙をついてバンドッグと街に買い出しに出かけた。普段はあまり二人で街に出かけることはないのだが、たまたまお互いに買いたいものがあったせいだ。
 バンドッグは真っすぐ前だけを見て、濡れた路面を一人でずんずん歩いていく。長身で脚が長いせいもあるが、この男には他人に合わせようという意識がそもそもない。一緒にいる人間がその歩幅について来られなければ、ついて来られない方が悪い。そういう考えなのだろう。
 別にバンドッグと仲良く買い物できるなんて最初から思っちゃいないが。
 トリガーはバンドッグの半歩後ろを忙しなく歩きながら、ため息を吐きたくなった。
 ふと、空を見ると灰色の雲にうっすら虹がかかっていた。薄ぼんやりとした今にも消えそうな虹だ。感動するほど綺麗ではないが、虹なんて滅多に見られないからやはり少し嬉しい。
 バンドッグに虹があると教えるべきか考えて、すぐに打ち消した。この男が虹ごときに感動するわけがなかった。子供っぽいと馬鹿にされるのがオチだろうな――と、ぼんやり思っていたトリガーの腕を、前を歩いていたバンドッグが思い切り引っ張った。
 予想外の動きにトリガーは反応できず、引っ張られた勢いのままバンドッグの肩口に顔面をぶつけた。鼻先がじんじんして、思わず手のひらで押さえた。
「何すんだよ、急に!」
「貴様がぼーっと空を見て歩いているからだ」
 バンドッグは言い捨てて腕を離した。
 なんなんだと一瞬、腹を立てたが、よく見ると足元には大きくて深い水たまりがあった。あのまま進んでいたらスニーカーも靴下もびしゃびしゃになっていただろう。
 庇ってくれたのか、とか。
 こちらのことを何も気にしていないように見えて、案外しっかり見ているんだな、とか。
「……ひと言『水たまりがある』って言えばいいだけだろ」
 トリガーはぼそりとそう言って胸の内のくすぐったさをごまかした。

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