旅立ち - 5/5

epilogue.

黄金色に輝く朝日が滑走路を照らしている。メビウス1は眩しさに目を細めた。
今日は晴天だ。吐き出した息が白いもやとなって風に消える。終戦は秋だったが季節の移り変わりは早い。
怪我をした腕はまだ包帯に包まれていたが、もう傷はほとんど癒えている。しかし一応、左肩にボストンバッグを下げた。
メビウス1は早朝の静まり返った兵舎を出て、徒歩で歩きだした。
誰も見送りのない旅立ちだったが、悲しくはない。メビウス1が望んだことだった。スカイアイも見送ると言ってくれたが、断った。
彼を前にすれば旅立つ決意が鈍る。離れがたくなるから。
あれからスカイアイと話し合った。メビウス1自身の安全のためには、やはり今は軍を離れるのが一番いいという結論になった。
スカイアイは、メビウス1が軍を離れている間に、メビウス1を狙った者を必ず突き止め、封殺すると約束した。危険だから止めてくれと言ったのだが、スカイアイは譲らなかった。
「君は、きっと飛びたくなるよ。空が大好きだから、飛ばないではいられないだろう。その時には、安心して軍にいられるようにしておきたいんだ。……いつか、戻ってきてくれるんだろう?俺の元へ」
そんな風に言われたら、なにも言えない。
基地の門の前にたどり着いた。そこから基地の兵舎やハンガーを振り返る。一年ほど前に、緊張しながら戦場に出て、空の上で初めてスカイアイに出会った。
まるで昨日のことのように思い出せる。
あの時から比べると、自分もずいぶん変わったような気がする。スカイアイのおかげで。
見送りは拒否したけれど、スカイアイはどこからかメビウス1の旅立ちを見守っている。それは予感じゃなくて、確信だった。
いつかまた、あなたの元へ帰ってくる。そのときには、もっと自信を持ってあなたの隣に立てるようになりたいから。

「いってきます」
メビウス1は小さな声で呟いて、基地の外へと一歩を踏み出した。