『星に願いを』
長方形に切られた赤や青や黄色の紙。それにメビウス1が何か書きこんでいる。子供が落書きをして遊んでいるようにも見え、スカイアイの頬は緩んだ。
「何をしてるんだい?」
「今日は七月七日でしょ? 七夕だから」
「君の国の風習?」
「そう。本当は笹に飾りをつけるんだけど――」
メビウス1は庭に植わっていたあまり大きくないレモンの木に短冊を結びつけている。色とりどりの短冊がぶら下がる様はそれなりに綺麗で、スカイアイにはクリスマスツリーのようにも見えた。
その札の一枚一枚に彼の国の言葉で文字が書いてあるのだが、スカイアイには読めない。
「何が書いてあるんだ?」
「願い事だよ」
「願い事?」
「『世界が平和になりますように』とか、『料理が上手くなりますように』とか……」
「……これは?」
たまたま目についたピンク色の短冊を指す。
「『隣のおじさんの腰痛が治りますように』」
「なんだい? それ」
スカイアイは思わず吹き出した。
「もう書くことがないんだよ。スカイアイも手伝って」
そう言って渡された数枚の短冊とペン。
「世界平和から隣のおじさんの腰痛まで治さなきゃならないとは、神様も大変だな」
スカイアイはおかしくて、しばらく笑った。
「どういう謂れのある風習なんだ?」
「俺もあんまり詳しくは知らないけど」
メビウス1は簡単に神話のような物語を話してくれた。
「織姫と彦星が年に一度だけ会える日か……。なかなかロマンチックだな」
「うん。でも、いつもこの時期は雨が降るんだよ。せっかく恋人と会える日なのに。今年も二人は会えないのかなぁ」
メビウス1はどんよりとした空を見上げてため息を吐き、残念そうに言った。
「天上にいる神に天気が関係するとは思えないがな。だって雲の上に住んでいるんだろう」
「あ、そうか」
メビウス1は目を瞬かせた。
自分も普段から雲の上を飛んでいるくせに、その考えには及ばなかったようである。
「だったらよかった」と、長年の悩みがなくなったみたいに晴れやかな顔で笑う。そして、スカイアイに何て願い事を書くのか聞いた。
「さぁ、どうしようかな」
スカイアイにとって一番の願いはメビウス1が幸せであることだった。しかしその願いは誰かに叶えてもらうものじゃない。
彼を幸せにするなら、自分の力で――。
スカイアイは空を思わせる水色の短冊にペンを走らせた。
『いつまでも、君と共に』