小話まとめ - 5/10

 

『待ち合わせ』

 

スカイアイは急いでいた。
すれ違う人波を、なるべく早歩きで縫うように進む。吐いた息が白く後方へ流れる。

駅前でメビウス1と待ち合わせをしていた。時間より少し前に着くように計算していたはずが、予想外に道が混んでいて待ち合わせ時間に遅れてしまった。
今日はずいぶんと冷える。
鉛色の重くどんよりとした空から、チラチラと白いものまで降ってきた。
こんなことなら待ち合わせ場所を屋内にしておくのだったと後悔する。
向かう場所は駅前の大きな広場、時計台の前だ。待ち合わせとしてはポピュラーな場所だった。視線を巡らせてメビウス1を探す。
その姿はすぐに見つかった。
渋い色のモッズコートのポケットに両手を突っ込んで、淡いベージュのマフラーを首にぐるぐる巻きにしている。少し不安げな様子で、伏し目がちに首をすくめてマフラーに鼻を隠している。その姿はとても寒そうで、スカイアイは罪悪感を覚えた。
走り寄ろうとしたとき、彼が何かに気づいたみたいに顔を上げてこちらを見た。スカイアイをすぐに見つけたメビウス1は、さっきまでの不安そうな顔を消してパッと輝くような笑顔を見せると、こちらに駆け寄ってきた。それがなんだか尻尾を振る仔犬みたいで、スカイアイは心の中がむずむずするような、叫び出したい気持ちになった。
にやける口元を皮の手袋をはめた手で覆い隠していると、近づいたメビウス1が「どうかした?」と不思議そうに首をかしげた。
「いや、なんでも。待たせて悪かった」
「ううん、今きたとこ」
微笑んで答える。スカイアイが来ただけで、至上の幸福を感じているみたいに。
自分が彼の立場でも同じように答えただろう。待ち合わせをしていたカップルの、よくある定型文だ。けれども、彼が自分のためにつく嘘がこんなにも愛おしい。
「寒かっただろう」
皮の手袋を外して、彼の赤くなった耳を手でつまむようにして覆った。ハッとして、スカイアイを見上げる瞳。少し視線をさ迷わせて染まる頬。
彼の嘘に気づいているけれど、口に出したりはしない。
嘘は、彼の優しさと、愛情でできているのだから。

 

診断メーカー『今日の二人はなにしてる?』より
今日のスカメビ:
駅前で待ち合わせ。伏し目がちで寒そうにマフラーに顔を埋めていたのに、こっちに気付いた瞬間ぱあっと嬉しそうな顔になって駆け寄ってきた。おまたせと言ったら「今きたとこ」だって。嘘つき。耳が赤くなってるよ。