小話まとめ - 2/10

『日常』

 

手の平がくすぐったい。

スカイアイはベッドの中で目を覚ました。
何かが手の中の柔らかな皮膚を爪でカリカリと擦ったり、ツンツンつついたりしている。いや、何かなどと考えるまでもなく目の前に背を向けて横たわるメビウス1の仕業なのは間違いない。彼を背後から包むように抱きしめて寝る至福のとき。腕枕の位置がちょうど手の平を彼の目の前に差し出す形になっている。メビウス1は眠るのに飽きたのだろうか。だからこんなイタズラをし始めたのか。正直くすぐったいが、猫のようにじゃれつく彼がかわいらしいから好きにさせた。
カリカリ、ツンツン。
カリカリ、ツンツン。
何度もされているうちに手の平が痒くなってきて我慢も限界。イタズラな彼の指をギュッと握って動きを止めた。一瞬、ビクッとする身体。さすがにこれでスカイアイが起きていることに気づいただろう。
しかしメビウス1は何も言わず、ギュッと握られた指を放せと言いたげにピクピクと動かした。スカイアイの手の中で芋虫のようにくねる指先。
そのわがままな指を解放してやる。自由になった指は少しの時間を空けて、こちらが油断してきた頃にまたくすぐりだした。
カリカリ、ツンツン。
これはもう、メビウス1もわかってやっている。遊んでいるのだ。
指を掴む。手の中で暴れる指。そしてまた解放して。
何度かその攻防を繰り返した。もう、お互いにはっきりと目覚めているのに、知らないふりをして無言でやりあう。それがなんだかおかしくて、だんだん笑いが込み上げてくる。けれど我慢している――お互いに。
ギュッと、これまでより強く指を掴んだ。どれだけメビウス1が暴れても外れないくらいに。
「もう、スカイアイ……!」
振り返って怒るメビウス1。初めて互いの目が合う。そして、同じタイミングで吹き出した。

くだらない。

子供みたいにくだらないことをして、怒って、笑う。
無邪気に歯を見せて笑う彼が、愛おしくて、たまらないんだ。