探し物はなんですか3 - 3/4

3.

それから俺はパイロットになるにはどうすればいいのかを調べた。
勉強も大切だが、それ以上に身体的な適性、性格なども重要なのだとわかった。難しいが、挑戦しがいがある。
パイロットになれるのか、なったとしてどうするのかは、今は考えていない。こうしてパイロットになることを考えている間は、胸の空虚を満たすことができる。
先生とは週に一度、進路の相談をしたり英語の勉強を見てもらったりしている。破格の待遇だ。
先生に「特別扱いはしないんじゃなかったんですか」と、若干の恨みをこめて聞いた。すると、先生は「生徒の夢を応援するのも教師の仕事だよ」とセクシーなウインクを投げてよこした。
あれから俺は、先生に“何か”を期待するのをやめた。
俺はずっと探していたんだ。大きな大きな胸の穴、虚しさを埋めてくれるものを。
それを埋めてくれるのは、先生のような気がしていた。
でも、違ったんだ……たぶん。
自分の胸の穴は、自分で塞がなくちゃならない。誰かに頼ったり、依存しても意味がない。
それがわかったんだ。

いつかこの学校を卒業して、大学に入り、パイロットの試験を受けて、晴れてパイロットになれたあかつきには、堂々と先生に会いに行こう。
先生はきっと笑って「よくやった」と言ってくれるはずだから。
そんな未来を夢想する――。

 

コツコツ。
骨ばった長い人差し指が机を叩く。
「どうした、上の空だな」
「あっ……、すみません!」
今は先生と、週に一度の勉強会の最中だった。
「まあ、いい。……疲れたか?そろそろ休憩するか」
先生は立ち上がり、そばに置いてあったポットから紙コップにコーヒーを注ぐ。
ひとつを俺に渡してくれる。
俺がじっと先生を注視していたからだろう。
「ん?どうした」
先生がこちらを見て微笑む。
目が合う。
そう、先生は俺を見る。見てくれる。
あれほど視線が合わなかったのに、なぜか最近はちゃんと俺を見てくれるようになったのだ。何故かはわからないけれど、なにかが確実に、先生の中で変化した。
――嬉しい。
フラれたとしても、俺が先生を好きなのは変わらないから単純に嬉しい。が、今度は俺の方が恥ずかしくて、耐えられなくなって視線を外す日々だ。
コーヒーは、先生好みで少しほろ苦い。
温かい視線を浴びながら、俺はほんの少し成長した自分で、大人の味を味わっている。