『フォーク×ケーキ』
君はどんな味がするのかな?
ふわふわの綿菓子みたいな髪に、マシュマロのような頬。さくらんぼの唇。ザクロのような赤い赤い口のなか。
ずっと想像してた。君はどんな味がするのかと。こんな俺は気持ちが悪いかもしれないから、決して口には出さない。でも君も、どこかで気づいていたはずだ。君はケーキだから、俺に食べられるのが運命なんだと。
フォークを君に突き立てる。すまない、痛いだろうね。甲高い悲鳴をあげる君。涙を舐めとったら、しょっぱかった。君の体でも甘くないところがあるのだと知った。
目の前にある、耳朶に歯をたてる。もちもちした求肥の柔らかさだった。
ラムレーズンを甘く噛んだ。レーズンが苦手な人もいるが、俺は好きだった。洋酒の味が染み込んだ、大人の味だ。ふにふにとした食感がたまらない。コロコロと舌の上で転がして、唇で吸う。君の震えが伝わってくる。
クリーム色をしたバニラアイスの肌が、俺の熱でとけてゆく。ぐずぐずにとけたアイスをサクサクのビスケットにつけて味わうのも乙なものだ。
君の果実から蜜を絞り出し、体に塗りたくる。悲鳴と、羞恥と、涙をスパイスに。これでまた君は、より一層おいしくなるだろう。
何度もフォークを突き立てられても、体の隅々まで余すところなく俺に差し出す君が愛おしい。食べられるのが幸せなのか?君はどこか恍惚としている。
このまま最後まで食べてしまったら、君は消えてしまうのだろうか。それは嫌だった。だけど食べたい。
俺の葛藤を知ってか知らずか、君は微笑みを浮かべた。俺に食べられる運命を受け入れて?それとも望んで?
最後の一欠片、涙のひとしずくまで舐めとって、君はこの世界から消えた。
俺はもう二度と君を味わえない。ケーキのないフォークに何の意味があるだろう。君以上に食べたいものなど、この世にあるはずがなかった。
君は今、どこにいる?
俺の腹がきゅう、と鳴った。